母親の「ご飯できたよ」という声に、「うるさいな」と返してしまった。弟が部屋に入ってきただけで、必要以上にきつい言い方をした。そのあと自分でも嫌になって、布団の中で天井を見つめる。引退してから、なぜかずっとイライラしている――。
部活を引退したあと、悲しさや寂しさではなく、イライラや怒りとして気持ちが出てくる人は、決して少なくありません。この記事では、イライラの出どころを整理したうえで、家族に当たってしまった後の立て直し方を、場面に沿って紹介します。
引退後のイライラは、どこから来るのか
イライラは、単独で起こるというより、いくつかの気持ちが重なって出てきます。代表的な出どころを挙げます。
行き場を失った力
毎日のように体を動かし、気持ちを張りつめていた生活が急に止まると、力の使い道がなくなります。有り余るというより、出口を失った感覚です。その力が、些細なことへの苛立ちとして噴き出すことがあります。
整理しきれていない悔しさ
結果に納得できていない、思うようにいかなかったという気持ちが、心の奥に残っていることがあります。悔しさは表に出しにくい分、別の場面で怒りの形をとることがあります。
周囲の「次は受験」という空気
引退した途端に、「次は勉強だね」「しっかりしなさい」と言われる。まだ気持ちの整理がついていないのに急かされるように感じると、反発心が生まれます。
予定がなく、手持ちぶさたなこと
忙しさが消えて時間が余ると、小さな物事が気になりやすくなります。家族の何気ない言動に、いつもなら流せることが流せなくなる場合もあります。
疲れの反動
長い間頑張ったあとは、気持ちに余裕がなくなっていることがあります。余裕が少ないと、些細なことで感情が揺れやすくなります。
当たってしまったときの、立て直し3ステップ
家族に強い言い方をしてしまった。そのとき、自分を責めるだけでは何も変わりません。次の3ステップで考えてみましょう。
ステップ1:その場で、距離をとる
イライラが強いまま話を続けると、言葉がさらに強くなりがちです。
- 「ちょっと、1人になるね」と一言だけ伝えて、その場を離れる
- 部屋に戻って、深くゆっくり息を吐く
- 水を飲む、顔を洗うなど、別の動きを一つ挟む
怒りの勢いは、時間がたつにつれて弱まっていく人が多いようです。数分離れるだけで、言葉の選び方が変わることがあります。6秒数える方法など、怒りの扱い方はアンガーマネジメント|怒りをコントロールする方法とやり方に詳しくまとめています。
ステップ2:落ち着いてから、短く伝える
気持ちが落ち着いたら、当たってしまったことを短く伝えます。長く説明しなくて構いません。
| 場面 | 伝え方の例 |
|---|---|
| — | — |
| 食事の声かけにきつく返した | 「さっきはごめん。ちょっとイライラしてた」 |
| きょうだいに強く言ってしまった | 「さっきは言いすぎた。ごめんね」 |
| 親の言葉に反発した | 「言い方が悪かった。心配してくれてるのは分かってる」 |
| うまく言葉にできない | 「まだうまく話せないけど、さっきのは自分が悪かった」 |
謝るときは、理由を長く弁明しないことがコツです。「でも、そっちが…」と続けると、また言い争いになります。
ステップ3:次に同じことが起きにくい仕組みを作る
謝って終わりにせず、イライラが出やすい場面を振り返ります。
- 朝、起きてすぐのとき
- 勉強や進路の話をされるとき
- 家に帰ってすぐ、空腹で疲れているとき
- 予定がなく、ぼんやりしているとき
出やすい時間や場面が分かれば、その前に一人になる時間を作る、軽く何か食べておくなど、事前の工夫ができます。
イライラの出口を作る
イライラを我慢し続けるのではなく、安全に出す場所を用意することも大切です。
- 書き出す:腹が立ったことを、ノートやメモに書く。誰にも見せなくて構いません
- 体を動かす:散歩、軽い運動、ストレッチなど。競技の強度は求めず、気分を切り替える目的で
- 音を使う:好きな音楽を聴く、鼻歌を歌う
- 話す:友人や、家族以外の信頼できる人に、「最近イライラする」と話す
体を動かすことは気持ちの切り替えの手段のひとつですが、ここでは何かの結果を約束するものではありません。合う方法を、いくつか試して選んでください。ストレスへの向き合い方全般はストレスとうまく付き合う方法も参考になります。
家族に知っておいてほしいこと
もし家族が読んでいるなら、次の点を知っておいてもらえると助けになります。
- 引退後のイライラは、家族を嫌っているからではないことが多い
- 問い詰めるより、「何かあったら言ってね」とだけ伝えて待つほうが、話しやすくなる
- 生活リズムや食事など、基本的なところを一定に保つことが、安心につながる
「怒り」の下にある気持ちに気づく
怒りは、表面に出ている気持ちです。その下には、別の気持ちが隠れていることがあります。
- 悔しさ
- 寂しさ
- 不安
- 疲れ
「どうして自分はこんなにイライラしているのか」と考えるとき、怒りの下にある気持ちを一つ探してみてください。気持ちに名前がつくと、扱いやすくなることがあります。考えが同じところを回り続けるときは、考えすぎをやめる方法も役立ちます。
イライラが強いときのセルフチェック
- 当たってしまう時間や場面を、一つ思い出せた
- 離れるときの一言を、決めておいた
- 腹が立ったことを、紙に書き出してみた
- 怒りの下にある気持ちを、一つ探してみた
- 謝る言葉を、短く用意しておいた
怒りが抑えられずに物に当たってしまう、人を傷つけそうになる、眠れない、食べられない状態が続くときは、一人で抱えず、保護者、担任、養護教諭、スクールカウンセラー、医療機関に話してください。公的な窓口は、文部科学省の子供向け相談窓口の案内ページや、こころの耳「相談窓口案内」から探せます。
まとめ
- 引退後のイライラは、行き場を失った力、整理しきれない悔しさ、周囲の空気、手持ちぶさた、疲れが重なって起こる
- 当たってしまったら、その場で距離をとり、落ち着いてから短く伝え、出やすい場面を振り返る
- 書き出す、体を動かす、音を使う、話すなど、安全な出口を用意する
- 怒りの下にある悔しさや寂しさに気づくと、気持ちが扱いやすくなる
イライラは、頑張ってきた気持ちのやり場を探しているサインでもあります。自分を責めすぎず、まずは今日の出口を一つ作ってみてください。
